社会の背景 5

ヘンリー・ジョージとシルビオ・ゲゼル 

ヘンリー・ジョージ HENRY GEORGE(1839-97) 

 1870年代、サンフランシスコの新聞発行者だったヘンリー・ジョージは発展の中での貧困の原因が、地主が要求した使用料によると確信し、土地から得る「単一税」が公平かつ公正な社会を維持するために十分であると主張した。1879年に書いた『進歩と貧困』は、全世界で200万部以上売れた。この本は、現在にいたるまで絶版になったことがない。彼は1886年にニューヨーク市長選に出馬し、当選まであと一歩のところまでいった。

 このアイデアは1890年代の間にシカゴでも広く議論されていた。フランク・ロイド・ライトの師であるルイス・サリバンは、この時期にGeorge派の議論グループに属していることを彼の自伝に書いている。



シルビオ・ゲセル SILVIO GESELL(1862-1930) 「自然的経済秩序 」1914

財やサービスの多くが時間の経過とともに劣化するのに対し貨幣は価値が減らず、蓄えることができるため多額の所有者に利子を要求する特権を授ける。利子を生み出す非中立的な貨幣は、業績にそぐわない不公平な所得分配を生じさせ、それは貨幣資本および物的資本の集中をもたらしその結果経済の独占にいたるとともに景気の波をつくる。 資本主義によらない市場経済を作る方法としてゲセルは時間とともに減価する貨幣を提案した。

   John Maynard Keynes(ケインズ)は、彼の仕事を「深い洞察のひらめきを含んでいるが、ただほんの少しで核心に達しなかった・・・未来はKarl MarxよりもSilvio Gesellの精神からより多くを学ぶだろう。」と書いた。ライトの施主の1人であったOwen D.Young は、国際通貨会議の米国代表であり、そこで活発にGesell のアイデアを推していた。

 ライトが FREE MONEY 、 FREE LAND と言う場合、ゲゼルの提案した自由貨幣、自由土地のことを指している。1921年に、ウィスコンシン州は John Commons によって立案された土地税を法律で定めた。(それは、Henry George と Silvio Gesell によって提案された土地改革のいくつかを達成することをめざしていたが、土地の国有化は必要としないものだった。)

ライトが単一課税を拒否する場合、思っていたのはこの種の課税であったと思われる。



ライトの自伝には以下の記述がある。                                                      

 「私たちのブロードエーカーの研究が私に見るように教えた第一のことは、われわれが-なすべきことは-今や子供に期待するのは市民としてのわれわれ自身の個人的な自発性においてだけでなければならないということである。子供のためにわれわれは、丁重にしかし断乎として、高等教育にその竹馬から降りることを求めなければならない。まず第一に、幼少の子供の教育を分散化し自由化しなければならない(同じ努力であるが国家社会主義が取る方向とは逆である)。 普通高等教育は特に生国の土地の上に何としてもともかく降ろさなくてはならない。そして高等と初等の両教育を十分に長くそこに置いて、それらの真実を-まず、健全な金と見られているこの交換手段に関わる真実を、つぎには、この良き大地のことを-学ばせなければならない。どちらをも現在までわれわれは疎かにしてきた。そしてここにわれわれは、土地についてはへンリー・ジョージ、金についてはシルビオ・ゲゼルを見出す。

    ヘンリー・ジョージが行った人間の貧困の基礎についての分析は、まだ一度も反駁されてはいない。耐えるための救いをもたらす彼による便宜的な手段は、賛同者より反論者を多く生み出した、というのは、便法が学者的な思考にとって原理より重要だからである。いつものように、手段を目的と間違える鳩の巣穴的な思考である。シルビオ・ゲゼルの 『自然の経済秩序』は、ヘンリー・ジョージがゲゼルの成功に必要であったように、ヘンリー・ジョージの成功に必要であった。二人は、同じ盾の反面であるが調和している。

 『自然の経済秩序』の前書きと「進歩と貧困」の前書きは、記録された英語の最も美しいものの二例である。両者は、万能薬よりむしろ原理を提示し、それぞれ、利得の手品師である職業的経済人たちには素朴と見える単純さをもって土地と金を扱っている。」


参考文献 ライオネル・マーチ BroadacreCity:Intellectual Sources Frank Lloyd Wright the Phoenix Papers

                                VolumeⅠ Broadacre City p.80-117 

     エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」  NHK出版