趣意書



    本年は、20世紀の三大巨匠の一人である、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトの

 没後50年にあたります。ライトは90余年の生涯において800を超える設計を手がけ、その

 多くの著書とあわせて、近代・現代建築の発展に多大な影響を与えました。

  日本との関係も深く、旧帝国ホテル、自由学園、山邑邸など、米国内以外でライトの作

 品が現存する唯一の国です。


      ライトの建築・思想は、個人の自由と尊厳を重んじ、その土地に融合する建築を創造する

 ことであり、自然を観察し洞察することから受ける啓示によって、真の価値を導き得るこ

 とでもあります。


  近代から現代社会にいたる質より量の豊かさの追求は、物事の真の価値を考えることを

 置き去りにしてきました。

  ライトの信条である「誰にも公平で快適な生活空間の創造」のために建築・社会へ向け

 た限りない情熱は、社会体制の根本への考え方にまで発展し、経済効率を最優先するアメ

 リカ社会の再構築を目指した理想社会、ブロードエーカーシティの提案と、その理念に基

 づくユソニアンハウスという、より現実に密着した、独創的で経済的な住空間の創作へと

 展開していきました。

  ライトの活動拠点であるタリアセンには、それらの集合体であるコミュニティの形を見

 いだすことができます。


  これらの理念に提唱された美しい環境に住まうことが個の、コミュニティの、社会の、

 さらには文化の高揚を促すことに繋がっていくものと私共は考えます。


   21世紀の初頭にあたり、先人たちが英知を持って今日まで築き上げた文明、技術、産

 業を駆使し、忘れかけられている個々の感性を磨き、ブロードエーカーシティとユソニア

 ンハウスの理念を通じて、人間にふさわしい、自然と調和した節度ある環境を創ることを

 考える試みを皆様と共有したいと願っております。



  平成219月吉日   ライト50年記念事業委員会